1992.11.10
角川書店

私たちが光の中に包まれたように
烏たちは飛び 緑は萌えました
私たちが光に包まれたその時に
あるあたたかな気持ちが空から降ってきました
私たちが光に包まれたその時に
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「光の中の子どもたち」
おいしいお菓子をたべようと誘いあってボートでわたった小さな島にその不思議なお城はありました
そのお城は白いサンゴ礁でできていて中は迷路のようだったのです
私は友だちの服のすそをぎゅっとにぎりしめてこわごわ奥へ進んでいきました
細長い白い壁のまがりくねった道のところどころのすき間から青い空がみえました
目がいたくなるほどの輝きだったので
そのあと道をみるとまっくらでしばらく歩けないほどでした
小さな音も大きく響いて
石のカケラをけとばすとカラカラとどこまでも音が迫いかけてきました
だんだんに高い所へ上がっているのでしょうか
階段がぐるぐるとらせん状にのびていきます
私たちは早く外へ
どこでもいいから早く外へでたかったので
苦しい息をしながらかけ上りました
段がだんだんせまくなって
らせん状の半径もだんだん小さくなって
最後にはくるくると回っているようにも思えた時
ぱっと目の前がひらけました
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目の前は思いがけず
美しいお花畑でした
その花のきれいなことにみんな後ずさりしたほどです
赤や黄色やむらさきや水色やピンクなど
それはそれは色とりどりでした
そしてその花をふちどる
やさしい色の茎や葉は
黄みどりや緑で つるのようにからまったり
風にそよそよ揺れたりしていました
私たちはこわごわその中に足を踏み入れて
ようやく落ち着くと
みんな今度は大よろこびでちりぢりにとびこんでいきました
木の上に登ったり
つたをブランコにしたり
お花の匂いをかいだり
やわらかな下草にねころんだり
時のたつのも忘れました
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みんながつかれてねむりこんで
やっとねむりからさめた時はもう夕方でした
天空は青から紫そしてオレンジへとうっすら色を変えて
静けさにすいこまれていくようでした
帰り道はどこだろう
さがしてもわからない
みんな心細くなって泣きだしたけど
やがて泣きつかれて
もう一度 空を見上げました
すると空にひときわ輝く大きな星がみえたのです
あの星が知っているにちがいないと
みんな思いましたので
その星に質問しました
「星さん、星さん。お家へ帰りたいのです。
お家へ帰る道を教えてください。」
星はまだねむっていましたが
かわいらしい小さなたくさんの声にサラサラと耳をなでられて
ハッと目をさましました
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見るとずいぶん下の小さな島に小さな子どもたちがたくさん
こちらを心配そうに見上げています
「まあまあ、みんな。いったいどうしたというのですか。」
「私たちはここへ来たのですが、お家へ帰る道が、
わからなくなってしまったのです。
お星さん。お願いです。
お星さんくらいの高い所からなら、
私たちの道がみえるでしょうか。
私たちの道を教えて下さい。」
星はしばらくそのあたりをみていましたが
やがて言いました
「みんなの足もとをごらんなさい。」
みんなは足もとをみました
足もとは夜光虫でキラキラ光っていました
「その光がずっとつづいていますので、
その光をたどって歩きなさい。
するとボートへとつきます。
ポートへはみんなのおとうさんおかあさんがおむかえに来てますよ。」
私たちはその声を聞きおわらないうちにもう走りだしていました
そうしてボートへついた時は
本当にお家の人が心配してむかえにきてくれてました
私たちはポケットに入れていたおみやげをとりだしました
それは とった時はお花や木の実だったのですが
今はサンゴのカケラや貝殻でした
けれどおかあさんたちは貝殻をうれしそうにうけとって
私たちの手を
今夜はもうちょろちょろ動きまわらないように
しっかりとにぎりました
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